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救国論? [物語]

本日発売の「文芸春秋」7月号の藤原正彦著、「一学究の救国論 日本国民に告ぐ」を通読。
いよいよ来るものが来たか!というのが私の読後感想である。昨日の西部邁氏の記事は、まだ
民主主義の潜在的問題の指摘と受取るだけの許容巾があった。藤原正彦氏の記事は明らかに
右傾化の主張である。普天間問題で米国の高官達が日本の右傾化を心配していたが、案の定?
日本人は読まれてしまっている。サッカーでも何でも読まれた手を打っていては勝てっこない?

この記事の論旨を大掴みに見てみよう。日本独自の良さを歴史書や明治時代の外国人の残した
日本に関する評判などを引用して、日本の素晴らしさを強調。次に、現代日本の惨状の原因を
アメリカの占領政策のセイにする。そして、日中戦争、日米戦争の正統性にまで言及する。
更に、日本文化が持つ普遍的価値を主張した上で、新憲法を作り、正統な軍隊を拡充しなければ
日本を救えない、という筋書きである。

幾つか記述内容に問題がある。まず、指摘したい事は現状を他人のセイにするな!という事。
日本人の美徳か欠点か知らないが兎も角、何でも他人のセイにする性癖は国際社会には通用し
ない。占領政策を非難している件は、「文明論や国際法が通用しない戦争」の現実を知らない
書斎人のたわごとに過ぎない。戦争はしないにこした事は無い。やるなら勝つ戦争をすべきだ。
弱い犬がキャンキャン吠えて、“独立自尊のために戦争は不可避だった”、等と世迷言をいって
強い犬にかみ殺されたような戦争をし、塗炭の苦しみに堕ちる位なら戦争しない方が良い。
次に、「日本が独立文明を築いた」というハンチントンの説は、決して良い意味ではなく、孤立した
仲間外れの国という意味である。現代のような情報化社会で日本のような大国が特殊な存在
と分類されることがどういうことなのか?数学バカではわからないだろうなぁ~!

幕末から明治にかけての外国人の日本評に関しては、ご都合主義としか言い様がない。沢山の
辛らつな批評も存在している。チャンバレンの評なども、何処から仕入れたか知らないが、彼自身も
結構辛らつな批評をしている。戦前は禁書になったものもある。彼の著書、「日本事物誌」に
“日本人の特質”という項があるが、自分の意見はいうと損だと断って、他の外国人の賛否両論
を併記した。この中で面白い一節がある。明治以降、日本が外国からの侵略を免れたのは、
「日本人の環境に対する敏感性、即応性」だという。また、「形而上学的、心理学的、倫理的
論争に興味を欠いている」、というのもある。私のいう危急存亡の時(リセットされた時、例えば
明治維新や敗戦後)には素晴らしいにも拘らず、天下泰平になると百家争鳴で衆愚政治に
陥る要因が、どの辺りにあるかがわかるような気がする。

チャンバレンを読み藤原氏の記事を読むとハンチントンのお説の通り、この情報化社会にも関わらず
日本文明が孤立している理由が見えてくる。藤原氏のような日本では一流の人物?と
目される人の書く記事が、全くの独り善がりで、仲間内の議論以外、対立する様な人々との
論争の後が全く感じられない。現在の日本が、救国を呼掛けるほど本当に危急存亡の時なら
もっと深く情報収集すべきではないか?そうでなければ、あまりに説得力がない。
西部邁氏の記事、「文明の敵・民主主義を撃て」では、最後に民主党政治の薄っぺらな基礎、
すなわち(「形而上学的、心理学的、倫理的論争に興味を欠いている」という日本人の特性が
現代に迄継続している事実)を厳しく批判し、国会の議論の重要性を論じている。さすがに、
勘所だけは押さえている。

明治時代の日本の大人も子どもも底抜けに明るい笑顔だった?幸せだったのかも知れない。
未開発諸国は皆そうである。水木しげるも著書の中で戦地のジャングルに住む村人をその様に
表現し、終戦時には、本気で現地に止まろうと考えたという。そういう時代、場所は良い。
しかしそういう時代の流れを変えられるとすれば、皆で議論するしかない。その場合
日本国内だけの独り善がりではどうしようもない。孫子の兵法を引用するまでもない。
戦争しても負けるに決まっている。だから先ず、世界から孤立しないことが必要だ。また
その時に、現代をどうしようもない悪い時代、という前提を、キッチリ議論する必要がある。
現代を多面的に充分な検討もせず、民衆が勝手に言い出した「悪い時代」を、票集めの餌に
政治家や、評論家が煽り立てることが、衆愚政治の始まりになると思う。如何なものか。
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