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NHKドラマ10「フェイク」・⑤ [物語]

今回の物語は、簡単に言ってしまえば痴情のもつれによる殺人事件である。
今回も骨董品(今回は江戸時代から伝わる「深井」と呼ぶ能面)の真贋、舞台で演じた時の面と、
江戸時代から伝わる面が、同一か否かが事件解決の決定的手掛かりであった。しかしそれだけ
だと浦野右(財前直見)の眼力で即座に解決され複雑な面白さに欠ける。今回の面白さは、
浦野右が、偽殺人犯と加害者・被害者と密接な関係者のソックリさんという二つの「フェイク」を
演じた処にあった。捜査主体である浦野右(財前直見)と犯罪者側との識別を曖昧にし、彼女の
発言の信憑性を失わせるという複雑な手法、即ち、パラドックスの手法を用いたのである。

被害者・岩瀬流の能楽師・岩瀬健吾(宮川一朗太)は、名うてのプレイボーイ。右(ゆう)は取調べ
で、岩瀬健吾が自分に「一目ぼれした」と証言した。白石亜子(南野陽子)は「右(ゆう)が一目
ぼれされるはずがない。だからひょっとしたら真犯人かも知れない。」と一瞬疑ったというのだ。
右(ゆう)は、痴情のもつれから殺人に至ったと思われた?この岩瀬健吾が「一目ぼれした」
という原因は、愛人・千香(財前二役)とソックリだったからで、本心からの言葉だった?

今回の物語は、謡曲「隅田川」を少し、わかっていないと面白くない。
私には観能の習慣は無いので、実際に舞台を見た事はないし、謡曲も知らない。
ただ、たまたま、昔、隅田川近辺を散歩した時に、木母寺に参詣し、梅若塚の由来を知った。
“梅若塚とは、数奇な運命によって春も弥生の中日(15日)木母寺の地で身まかった梅若丸
 いう少年貴族の塚。そして翌年の同月同日、里人集まって念仏し弔っている時に、梅若丸の
 母親が訪ねてきたという。愛児の末路を知り悲嘆の涙にくれる。
 その夜、里人と共に、念仏していたときに塚の中より吾が子の姿、幻の如く見え、
 言葉を交わすかとみれば、春の夜の明けやすく、浅茅の原の露と共に消えうせぬ。”
という説話が残っている。それが、謡曲をはじめ、浄瑠璃、歌舞伎、清元などの「隅田川」として
受継がれてきたようである。

ドラマでは能楽師・岩瀬健吾が、愛人・千香の一周忌(年明け)に、流産した自分の愛児を梅若丸
に見立て、梅若童子の戒名を能面の裏に刻んで舞う。「隅田川」は説話にある春の出来事だから
春の演目らしい。岩瀬健吾の振舞いに対して、千香を愛していた夫・水島隆之(高橋和也)の怒り
が殺人に駆り立てた。舞台で演じた時の能面が伝来品と異なることから、岩瀬健吾が舞台で踊る
前に殺されたと分る。能楽「隅田川」の小道具・笹(犯人の指紋が付いている?)が残って
いるという情報の罠にはまり、盗みに入った水島は、其処で御用となった。如何なものか。

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